私達はきのこの未知と可能性を科学し、これからも食の安心と里山の環境保全に貢献し続けます

2012年10月15日
原木指標値見直しと今後の展望について

お得意様各位

 平素は格別のお引き立てを賜り厚く御礼申し上げます。
未曾有の惨禍となった昨年の東日本大震災、原発事故から1年半余りが経ちます。しかし、復興への道のりはあまりに遠く、そのペースの遅さには苛立ちを覚えずにはいられません。私たちはこの間、何とか最悪だけは回避したいとの思いで原発事故直後から放射能問題と対峙してきました。しかし、一度環境に出てしまった放射能という驚異に対して、残念ながら私たちは余りに無力であることを改めて思い知ることになってしまいました。そうした中で、原木シイタケは今、これまで誰一人全く経験したことのない放射能汚染という大変大きな試練に直面しています。そうした大きな困難と不安の中で懸命に闘っておられる皆様に心からお見舞い申し上げます。
さて、ご承知のように去る8月30日、見直し後のキノコ用原木(榾木)の指標値50bq/kgが林野庁から発表されました。しかし、その指標値の基礎となった移行係数の2は、弊社及び江口教授(東京農大)が各々の試験から得た移行係数の1以下とは大きくかけ離れています。その食い違いの原因とデータの精度について、これまで幾度となく林野庁と話し合いを重ねてきました。その結果、国は調査方法に問題があったことを一旦は認めたものの基本的な国の方針(意思)を変えるまでには残念ながら至りませんでした。
その国の意志とは科学的に正しい適正な移行係数ではなく、最終的に必要としていたのは単に厳しい規制を正当化するためのものに過ぎなかったのではと思えてなりません。
従って、そこからは大事な一次産業と生産者、さらには里山を守ると言う林野庁の本来の使命や責任を感じ取ることは残念ながら出来ませんでした。
何れにしても、指標値の根拠となった移行係数は、キノコの含水率を全く無視していること等、調査方法には問題点が多く、決して正確なものではないと考えています。それらに関する問題は先の検討委員会だけでなく、去る9月に東京農大で開催された日本きのこ学会第16回大会でも発表しております。(弊社ホームページ上でも公開)
なお、林野庁は「指標値は当面のものであって今後見直すことも有り得る」と言明しています。移行係数は原木シイタケの将来にも関わる大事な問題ですから、科学的に適正な移行係数と指標値となるよう引き続き正して行くつもりです。
そもそも林野庁がこれまで行ってきた移行係数の調査や検討は、原木シイタケと栽培農家を守るために必要な安全な原木とそれを安定供給するための手掛かりの一つに過ぎず、栽培を規制する指標値を決めることが最終目的ではありません。従って、林野庁は原木の指標値(規制)の発表に先立って、先ずは原木の安定供給をどのように実現し、原木シイタケと生産者を如何に守って行くのかと言う、基本的な姿勢や具体的な施策をしっかりと生産者に示すべきだったのではないでしょうか。

その意味で言えば、国は速やかに50bq/kgと言う指標値で再調査を行い、正確な原木需給の実態を把握するとともに、想定される大量な原木不足に対して必要的確な対策を講じて、私たち生産者が再び安心して原木シイタケを作れる環境を早急に整え、同時に、社会と消費の信頼回復のために必要な検査体制の充実を図ると共に、それに伴う検査結果の取扱いに関する制度改革を行って、無用な公表によって生じる原木シイタケへの風評被害を無くすことが、いま何より国が取り組まなければならない課題なのではないでしょうか。

ところで、弊社では現在全国各地の新たな原木産地の掘り起こし作業に取り組んでいます。各地の休業、或いは放置状態にある原木林や可能性のある地域を隈なく探しながら、先ずは地元の皆さんの理解と協力を得るために時間をかけて説明とお願いを続けています。これはかなり根気と手間のかかる仕事ですが、誰かがやらなければ原木の供給量を増やすことはできません。同時にそうした活動を通じて壊れ始めている各地の里山の保全や再生が、少しでも良い方向へ動き出してくれればと思っています。
一方、除染栽培に関する研究も行なっています。少しでも汚染のリスクを軽減するための技術や資材の開発に向けて様々な試験研究を、問題意識を共有する皆さんと情報交換しながら現在進めています。
そして、原木シイタケへの信頼を一刻も早く取り戻すため、各地で開催される食品や農業に関する様々なイベントに今後も積極的に参加し風評被害の予防と解消にこれからも努めてゆくつもりです。
また、数年前より原木シイタケを有利販売するために立ち上げた「名水きのこの里」、「里山物語」ブランドによる産直販売ネットワークは、現在その実績が評価され、幸いにも徐々に販路が拡大しつつあります。今なお続く風評被害で出荷や販売が困難となっている全ての栽培者の皆様の、直ぐのお役には立てないかも知れませんが是非一度ご相談ください。
国策で始めた原発が、国の安全審査の元で引き起した破局的な事故によって、今も実にたくさんの人々が理不尽で苛酷な放射能問題で苦しんでいます。もちろん私たちも残念ながらその例に漏れません。無念です。しかし、この放射能問題には私たち生産者には何一つ責任も落ち度もありません。従って、私たち生産者は絶対に自ら絶望しません。寧ろ、この危機をバネにして原木シイタケを一日も早く再生させて、もう一度里山の自然と農業、たくさんの生き物が生きられる自然環境、それをやさしく循環させる社会を取り戻すことによって、原木シイタケはこれまで以上にその役割が見直され、一層大きな輝きを取り戻す日が必ず来ると信じています。
今季がその大切な未来の始まりになることを願ってやみません。
 本年も栽培者の皆様のますますのご活躍とご健勝を心よりお祈り申し上げます。

2012年10月
株式会社富士種菌
代表取締役社長 相場幸敏
きのこかわら版
名水きのこの里


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