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2012年03月14日
提言 正しい移行率試験のあり方

提 言 

? 正しい移行率試験のあり方 ? 


 今般、求められている指標値は通常栽培におけるシイタケ原木の安全な利用を目指すためのものである。それを裏付けるための移行率の解析試験はあくまで偶発的に発現しうる最大値や生物学的科学的絶対値を追求するものではなく、これから某かの汚染原木に植菌して栽培を行ったとしても、そこから発生するシイタケの放射性セシウム値が食品安全衛生法で定める数値を超えないようにするためのガイドラインを示すことが重要である。
 
放射性セシウムに対するシイタケ菌の生物学的移行率の絶対値があるとすれば、原木栽培も菌床栽培も常に同じ数値でなければならない。
もし異なる数値が現れる場合があるとすれば、それは栽培方法や栽培環境など様々に異なる諸条件の違いによるものであって、原木か菌床かといった単純な二元論で片付けるものではない。
 
一方、国の調査データの中にイレギュラーな移行率(大きく乖離した高い数値)を示すホタ木があったとされる問題については、古いホタ木(2,3生以上)だけをサンプリングしてデータ収集を行った試験方法に根本的な問題点があったと考えられる。何故なら、
1、        古いホタ木の場合、初年ホダ木(1年生)に比べると、樹皮組織の腐朽等による物性の変化、シイタケの採取跡等の樹皮部の損傷によって、雨水と共に高濃度放射性Cs(セシウム)がフォールアウト時点(H23.3.12?)からホタ木内(内樹皮、樹幹部)へ直接浸透しやすい状態にあった。
2、        ホタ木内へ浸透した高濃度の放射性Csは早い時期からシイタケ菌糸体内に吸収、蓄積され、結果として放射性Csの高い子実体が出やすい。
古ホタから高い濃度に汚染したシイタケの発生が傾向的に見られるのはそのためである。
3、        古ホタは栽培履歴(発生回数等)やホタ化の状態等によってホタ木の状態は千差万別である。それらの中には、樹皮に近いホタ木の浅いところだけを偏って菌が蔓延腐朽する、一般に「上ホダ」と呼ばれるホタ木も含まれる。
このような菌廻りをするホタ木は一般に太い原木に多く見られる。
大径木は樹皮の表面積に対して材積の割合が大きく、ホタ木全体の放射性Cs値(bq/kg)は細いホタ木に比べると低めに現れる。
その反面、上ホダと呼ばれるようなホタ木から発生するシイタケは、放射性Cs濃度の比較的高い内樹皮付近に偏って蔓延している菌糸体が子実体を形成するため、シイタケからは高い数値が出やすい。
その他、シイタケの採取跡など樹皮部の傷口周辺部は局所的ホットスポットとなっている可能性がある。そうしたホタ木内の局所的高濃度に汚染された蔓延部から発生した子実体は、必然的に高濃度な放射能汚染シイタケとなる。
 
それらの理由から、シイタケCs(bq/kg)/ホタ木Cs(bq/kg)で算出される移行率においては、時として思いがけず高い値が現れる可能性は十分に考えられる。
 
しかし、現在、原木(立木)の状態で外樹皮のみ表面汚染しているシイタケ原木に植菌して栽培を始める(昨年、原木で被曝した1年ホタ木も同じ)場合、これまで述べてきた古ホタ木の被曝放射能汚染状況とは大きく異なり、高濃度な放射能汚染物質が雨と一緒に直接樹木組織を貫通してホタ木内に浸潤するような事態は、今後、新たな原発事故が発生しない限り起こりえない。また、外樹皮に沈着している放射性セシウムは樹皮組織の健全性が十分維持されている原木、或いは新ホタの場合、内部への浸潤は相当期間(通常の生シイタケ栽培期間中)食い止められると考えられる。その点については、弊社が行った「発生回数と移行率の相関性試験」で裏付けられた。
さらに、外樹皮部に付着した放射性セシウムは一度沈着すると散水や降雨では容易には溶出しないことが、これまでの原木除染試験、及び浸水時の水に溶け出した放射性Cs量を測定した試験結果からも明らかとなっている。
今般、求められている指標値は通常栽培におけるシイタケ原木の安全な利用を目指すためのものである。従って、上述のとおりイレギュラーなデータが出る可能性のある千差万別の古ホダのみのデータだけで移行率を議論し決定することは適切とは言えない。
本来的には汚染した原木で栽培をスタートしたホタ木(H23年植菌)のデータから得られる移行率を優先に科学的、かつ総合的に分析し、シイタケ原木の適正な規制値が検討されるべきと考える。
 
その一方で、この4月から施行される新しい規制値100bq/kgに然るべき対策を必要としている、東日本に現存する膨大な数の発生ホタ木(2年生以上)がある。それらから発生するキノコを行政を始めとする関係機関(者)の指導によって規制地を超えないようにコントロールすることが極めて現実的な課題として急務である。むしろ、これまで収集された古ホダの移行率試験データはそこにこそ活かされるべきではないだろうか。
無用な混乱を招かない為にも早急な対策が望まれる。
 
昨年10月末に林野庁によって示されたキノコ用原木の放射能測定のガイドラインは、「10ha当たり3本の原木からサンプルを採取して・・天日で2日間乾燥させる」といった実に大雑把で曖昧な方法である。しかし、それ以外に現実的には検査のやりようがないのも事実である。昨年の福島の汚染米の問題が物語るように、そこに1次産業の放射能対応への難しさや規制だけに頼るやり方に限界があるのかも知れない。
何れにしても、規制値だけで安全な栽培を追求しようと考えるのであれば、究極的には日本で栽培しないことが最も安全な栽培となる。もはや規制値を単に厳しくするだけで解決できる問題の域を超えているように思える。
もちろん、汚染を減らすための努力と工夫は何より重要ではあるが、もう一方で生産物をきめ細かく定期的継続的に検査するしっかりとした仕組み(風評被害を拡大させない配慮は絶対不可欠)を構築する以外に食の放射能汚染リスクを減らすことは出来ないと考える。
国民に食の安全安心を保証するためには、日本の農業を守ることをなくして成し得ない。それには何より農家に農業を続けることへの安全安心を保証することを疎かにしてはならない。ひとつ間違うと原木シイタケ栽培農家を切り捨てることにつながる極めて重大な判断が安易に決定されることがないことを切に願う。

  平成24年3月8日                       
株式会社 富士種菌
                          代表取締役 相場幸敏
 

※こちらの記事は、2月28日付の「提言 ?キノコ用原木の規制値のあり方について? 」を更新したものです。

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